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見晴らしのいいレストランはバーカウンターが併設されていて、食事を楽しむ人とお酒を楽しむ人に別れていた。
当然カウンターに腰をおろす。
耳元で一杯だけ、と念を押されて素直に頷く。
その低く心地好い響き。
若先生は、ウィスキーとビールを頼んでいた。
これじゃ、若先生の思う壺だ。
いいように転がされて
いいように煽られて
いいように焦らされて
何か反撃の糸口は無いものかと探してはみるが、頭はうまく働かなくて。
目の前に置かれた黄金色に光る液体も、渇きを潤すまでに至らない。
「蜜」
呼ばれた音もどことなく婀娜(あだ)めいて聞こえて
上から射すオレンジの僅かな光がそれを助長させた。
フ、と笑った後
伸びてきた右手が唇をなぞって頬に添えられた。
きゅ、と心臓のもっと奥を捕まれた気がして。
恥ずかしくなって俯くと
頬から顎へ移った手が容赦なく顔を持ち上げた。
絡んだ視線の先に
甘く微笑むマスク
近付いて距離がゼロになる。
そして更なる羞恥を煽っていく。
「部屋付けで」
若先生が少し離れた所に立つウェイターに告げる。
カードキーを翳して(かざして)サインをした後、おいで、と呟いた若先生はあたしを丁寧に促した。
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