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つい今し方歩いてきたばかりの道を引き返していく。 繋がれた手は温かかった。 あたしの鼓動に共振して、指先がピリピリと痺れている、 それくらい1回ずつの鼓動が大きな音を立てていた。 エレベーターを降りて、入れ違う男女に道を開ける。 扉が閉まる直前 「なんだか甘い匂いがするねぇ」 男性の声が聞こえて静かになった。 甘い、匂い。 急に恥ずかしさが纏いつく。 いつも、さっきも言われた事を 全く知らない人にも言われて。 いや、あたしの事を言ったのではないかもしれない。 あたしは香水はつけてはいないから。 だけど、反応しない訳がない。 「蜜」 部屋の前まで来て あたしの後ろからキーを差し込んで解錠する。 背中を覆う大きな身体。 腰の辺りに添えた左手。 ノブを掴む右手。 触れている、考えただけで息が熱くなる。 半ばあたしを押し込むように室内へ。 後ろから耳元で音がする。 「誰誘ってんの」 恥ずかしさが膨れ上がって 見るまでも無く、燃えるように熱くなる顔。 トンと押されて離れた距離に振り向くと 唇の端をあげて笑う若先生。 もう何度も見たその眼差しから逃げられなかった。
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