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「え…?」 不思議そうにあたしを見ていたその女性。 「やっぱり、折原! 久しぶりだね」 懐かしい笑顔が零れた。 「ご無沙汰しています。 山下先生」 あたしに声を掛けたのは、N大時代にお世話になった山下加織先生。 「どうしてるかとは思ってたけど、吉川先生にこないだ折原の事聞いてさ」 「あはは、ご心配お掛けしました。すいません」 山下先生は隣に腰かけると、すぐに、聞いた?とあたしを覗き込んだ。 聞いた? と、いうのはきっと、昨日パパ先生から聞いた話の事だと思う。 「あ、聞いたからここに居るんだよね」 綺麗な笑みをこちらに向けてあたしの答えを待たずに言う。 山下先生はサバサバしていて、どちらかというと男っぽい。 アルコールが入るとそれはそれは、おじ様のようになる。 なんだけど、どこか色っぽいというか、艶っぽいというか、 あたしはそんな山下先生をとても慕っていた。 「で、考えてくれてるんだ」 再度あたしを覗き込んだ山下先生の目はあたしを捉えて離さない。 「…まだよく、分かりません」 そう呟いたあたしの反応に少し目を丸くした山下先生。 「なんだ、二つ返事かと思ってたのに」 「すいません」 「そりゃ、ブランクあるから大変な事だとは思うけどね。 折原、自信無いの?」 自信なんて、あるわけない。 「そういえば、折原くん、帰ってきたのね。 こないだバッタリで、ビックリだったわ」 「兄をご存知なんですか…」 若先生といい、山下先生といい、世間は本当に狭い、狭すぎる。 「知ってるも何も、T大の同期だし」 「えー!!!」 わはは、と笑うこんなところがとてもおじ様っぽく見えて、しかも兄と同じくらいの歳だった、という事に驚きを隠せず、ポカンと口を開けたまま山下先生を見つめていた。
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