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「いえ、私はまだ勉強中で。 優秀だなんてとんでもないです。 では、失礼します」 造り笑いを貼り付けて再度、クルリと向きを変えて歩き出した。 パタンと背中のドアが閉まる音が聞こえて、体の力が抜ける。 どこから飛び出したのか、そんな噂。 それにしても、あのヒト苦手だわ…。 なんていうの? 非の打ち所が無いっていうか、 上っ面だけっていうか。 「精神的に乱れる事あんのかなぁ」 ボソッと呟いた次の瞬間 「ありますよ、人間ですから」 「ぎゃああぁぁ!」 誰もいないはずだったのに、 独り言だったのに、 ど、ど、ど、 「ど、どうしてっ?」 「先程からご一緒していますが」 飄々と答えた大森先生は、手に持っていた数枚の紙を顔の前まであげてヒラヒラさせた。 コレを届けに行くんだと、言わんばかりに。 「び、ビックリしました…」 息を荒げながら、なんとか落ち着こうと胸をトントンと叩く。 「失礼しました、お気付きかと思っていましたので」 何故か得意そうに見える大森先生の横顔に、更に苦手意識を膨らませてしまう。 足音さえ、あたしの耳には届いていなかったのに。 確認するように耳を澄ましても、音が無いわけではないが、かなりの小さな音。 あたしが鳴らす少しのヒール音が響いているせいもあるんだろうか。 「先程のお話ですが…」
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