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何が言いたいんだろう。
だから、何なんだ。
「あ、の」
「はい?」
「今日初めて先生にお会いしたと思いますが…、違いましたか?」
おや、と言う顔を覗かせながら、そうですよ、と答える大森先生は変わらず飄々としていて。
「それなのに、首に触れられたり、この事を詮索されたり…
まったく愉快ではありませんが」
まるで棒読みのセリフに
造り笑いをプラスして。
相手にも負けず飄々と答えてやった。
少しの沈黙が流れた後
「そうですね。
大変失礼しました、さぁ、では参りましょう」
あっさりと引き下がりやがった。
切れ長の目は無表情を取り戻していて、
それは少し恐いぐらいだった。
だけど怯むわけにはいかなくて、あたしも無表情で挑んで、はい、と頷いて、大森先生の後に着いていく。
少しの飲み残しと分別は
大森先生がテキパキと片付けてくれて。
「ありがとうございます」
後ろから声をかけると
「いえ、お気になさらず」
前を向いたまま返ってくる音。
ちょっと、ヤな空気が流れたような気がしたが、当たり前の事を言っただけで、あたしは何も悪くはない。
悪くはないけど、後味が悪くて。でも、明日になれば東京に帰るから問題は無くなるわけで。
この時だけ、今晩だけ我慢すればいいと自分に言い聞かせた。
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