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あたしを見下ろす両の目が 心なしか驚いているような そんな印象 感情が表に出たのを初めて見た、と言っても過言では無い と、言うくらいに、珍しい。 「す、すいません……」 あたしは女性用扉へ進もうとして。 狭い通路で体を捩った。 「何かありましたか」 そう言って あたしの手首を掴んで 顔の辺りまで持ち上げる。 掴まれた手の温かさにビックリした。 「どうされました」 「え、別に……何も」 握られた手首が一層強く絞められて。 「震えてますよ」 あ、と、聞こえないくらいの小さな呟きの後 「それに―――泣いてる」 大森先生は反対の手の親指であたしの頬を拭った。 「え……」 泣いている意識は毛頭無かった。 そう言われて、あたしも掴まれた手首とは反対の手で自分の頬に手を添える。 「……」 確かに濡れている。 信じ、られない。 そんな風に考えていると あたしをフワリと引き寄せた大森先生。 「おっ、大森、せんせっ」 「静かに」 反論しようとした あたしを遮って 背中に回された腕の強さに戸惑った。 「心臓、聞こえますか」 そう尋ねられてさらに、 音、聞いて、 と低く呟いた。
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