14

11/36
前へ
/36ページ
次へ
あたしの逆立った心臓が 宥められていく。 暖かい血の流れを取り戻すかのように、指先の震えが無くなるのが分かった。 耳をくっ付けて 刻むリズムに溶け合うように落ち着いてゆく。 暫くそうして ハッと目を開けた。 あたし、 何やってんだ。 両腕で、大森先生の体を押しやり、勢いよく顔をあげる。 そこにはいつもの飄々とした先生のその顔。 「大丈夫ですか」 そう聞かれたから 「はい」 と、応えた。 気恥ずかしい気持ちが一気に沸いてきて、今度は慌てて俯いた。 「次のオペでは、私もご一緒します、お手柔らかに」 大森先生はあたしに回していた手を自然にほどいて、外廊下へと続く扉に手をかけた。 「折原さん」 首だけをこっちに向けて 「あんまり、隙を見せていると、つけ込まれますよ」 ポツリそう呟いて、出ていった大森先生の後ろ姿を見ながら この失態をどう収拾すればいいのか 今更ながらに覆い被さってきた羞恥を追い払うように考えていた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2161人が本棚に入れています
本棚に追加