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あたしの逆立った心臓が
宥められていく。
暖かい血の流れを取り戻すかのように、指先の震えが無くなるのが分かった。
耳をくっ付けて
刻むリズムに溶け合うように落ち着いてゆく。
暫くそうして
ハッと目を開けた。
あたし、
何やってんだ。
両腕で、大森先生の体を押しやり、勢いよく顔をあげる。
そこにはいつもの飄々とした先生のその顔。
「大丈夫ですか」
そう聞かれたから
「はい」
と、応えた。
気恥ずかしい気持ちが一気に沸いてきて、今度は慌てて俯いた。
「次のオペでは、私もご一緒します、お手柔らかに」
大森先生はあたしに回していた手を自然にほどいて、外廊下へと続く扉に手をかけた。
「折原さん」
首だけをこっちに向けて
「あんまり、隙を見せていると、つけ込まれますよ」
ポツリそう呟いて、出ていった大森先生の後ろ姿を見ながら
この失態をどう収拾すればいいのか
今更ながらに覆い被さってきた羞恥を追い払うように考えていた。
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