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************ 何故 この男がいるんだろうか。 夜の夜中に、どうして? 「蜜」 その名前を呼ばないで。 仮眠室のドアを解錠した直後 後ろから押し込められた。 口を塞がれて 体をピタリと寄せてくる 震えが走る全身をなんとか思い留まらせて 口を塞いでいた手を強く噛んだ。 「いっ……っ」 ゆらりと緩んだ拘束から 両肩をゆすって抜け出す。 3畳程度の仮眠室。 逃げるのには限界がある。 「外科医の指に傷つけるなんて、大した度胸だね、蜜。 相変わらず大胆だ」 暗がりに浮かぶ 造られた笑顔は やはり あたしにはこの上もなく 不快なモノで。 耳に入ってくる声は 気分を逆撫でして、更に胃の中をかき混ぜて出ていく。 いわば密室で 二人になったこの状態は "危機”以外の何物でも無い。 途端に冷や汗がこめかみを伝う 背中を滑り落ちる 頭の中で黄と黒が混ざり合って楕円を描き始めた。 「どう、して…」 逆立つ毛穴をギュッと抱え込み 必死で言葉を紡ぐ。 「どうして? あれ、知らなかった?矢谷さんが入院中は俺も夜勤に来てるんだ」 絶句、だった。
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