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周りの空気が重くなって。 脚が途端に前に進まなくなる。 「あ、来た来た」 「うちの看板ナースですよ」 島田先生と福山師長の声が遠くで聞こえて、代わりに自分の心臓の音が直ぐ傍で響く。 どうして。 ドウシテ 「折原か」 グニャリと目の前の景色が歪む。 もう同じ部屋の空気でさえ 吸い込みたくなかった。 どうしよう、 どうしたら…… 落ち着いて 落ち…… 「あ、知り合い? 中山先生――」 血液が逆流したんじゃないかってくらいに全身の毛が逆立つ。 血圧が上昇してるのがハッキリと分かるくらいに心臓の圧が強い。 「えぇ、折原、うちでしたから」 「ああ、そっか」 中山治樹の造られた笑いが 胃の中をかき混ぜる。 「今日矢谷さんのオペ、器械出しで入ります」 荒井さんがあたしに振ったので あたしは顔を隠すようにお辞儀をした。 「あれ、折原、どうした?」 島田先生までもがあたしに矛先を向けてくる。 「……いえ、宜しくお願いします。」 なんとか口を動かして 挨拶にも程遠いような片言を紡ぎ出した。 「では、失礼します」 荒井さんがあたしを促して部屋を出ようとする。 こんなに急に向きを変えるなんて。 何か気づいたのかもしれない。 「あ、じゃあ、宜しくね」 島田先生の能天気な音さえも 今はとてつもなく苦しかった。
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