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部屋を出る前に また不協和音が奏でられる 「じゃあ、また後でな」 それには何も応えず、 失礼します、と、深くお辞儀だけをして部屋を出た。 震える。 手が 脚が 指も、唇も。 こんな事じゃ駄目なのに 今年は挑戦の年じゃなかったのか あんなに上昇したはずの血の気が 今度は嘘のように引いていく。 「どうしたの、折原さん」 荒井さんがあたしの背中に手を添えて ハッと体をびくつかせた。 「あ、えっと、ちょっと手洗いに行っていいですか」 「もちろん、今の感じで仕事されちゃ、困る!」 そう言い切った荒井さんに、すいません、と頭を下げて トイレ迄小走りに進んだ。 ヨロヨロと頼り無げに蹴り出す足元にしっかりと力を入れて、唇を噛む。 そうだ。 荒井さんの言う通り。 こんな顔面蒼白でオペに入れない。 邪魔。 震える手を握りしめてオペ室から一番遠い、従業員用のトイレに駆け込んだ。 扉を開けて勢いよく飛び込んで 何かに当たる。 「っ!」 目の前が深い緑の術着で覆われた。 ハッとして、顔を上げて。 絡んだ視線に尚も驚いた。
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