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あぁ、見とれてる場合じゃなかった。 簡単に言えば糸を結んで、傷を合わせる、という作業なんだけど これが綺麗なドクターっていうのは どんな事をさせても丁寧な印象がある。 余り強く縛っても良くないし 逆に弱くてもダメ まぁ、折原先生は普段はちっとも 丁寧じゃ無いんだけど…… オペだけは本当に見事だった。 だけは、ね。 そんな見事なオペが終わって、 あたしは引き続きERへ夜勤に移動する。 「お疲れ様でしたー」 「はーい、お疲れー」 「いってらっしゃーい」 無事にオペ部から見送られて 長い廊下を歩いていると 向こうからもこちらに向かってくる影が。 それは正直、会いたくないヒトで。 だけど、仕事上、会わずにはいられなくて 最近は組むことも多くなってきた。 「お疲れ様です」 「あぁ、こんばんは」 相変わらずの変わらない態度を見せる 大森先生。 あの、美紀さんの結婚式以来 仕事以上で出来るだけ長く同じ場の空気を吸わないようにしていた。 「夜勤ですか」 「先生も、確か当直でしたか。いってらっしゃい」 少し立ち止まった足を動かし初めて 頭を軽く下げた。 その場を通り過ぎて ふ、と笑いを含んだ呼気が 大森先生から吐き出された。 「そんなに敬遠しなくても襲いかかったりしませんよ」 言われたセリフに物凄く恥ずかしくなった。 だけど、何とか反論する言葉を見つけ出して、背中にセリフを残していく。 今度は、あはは、と声を出して笑った大森先生は、そのまま廊下を歩いて行った。
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