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字の通り ひどく驚いたまま 固まり続けるあたしに 中山治樹は淡々と話し続けていた。 そして規定のお時間、10分に達する少しだけ前に 「元気でな、蜜」 と、付け足して。 ER受付の前を通り出ていく。 気が付いたら 走り出していて、外玄関の手前で あの、大嫌いなはずの 虫酸が走るはずの 絶対に関わりたくないはずの 中山治樹を呼び止めていた。 「中山先生!」 今度は、あたしの声に驚いた顔を向ける 中山治樹。 「どうした?」 ゴクリと意を決した塊を飲み込んで お腹に力を入れた。 「ぜ、絶対に戻ってくるべきだと……」 見上げた中山治樹の驚いた表情は変わらずで。 「おも、います」 瞬きすらしない目は しっかりとあたしを捉えていて 「ドクターとしては 腕は、いいから……きっといつか」 また第一線に、立って下さい。 中山治樹はあたしにとって 本人自体を消してしまいたいくらい 嫌な存在 付けられた傷は深く 抉られた(えぐられた)心は痛い 今でもそれは変わらない どこかで間違ってしまった 一つ一つの絡まった鎖が ほどけることはもう無いだろう。 だけど 医師としての中山治樹は 必要だと思った。 「あぁ」 一言そう呟きながら 見せた笑顔は あたしが、中山治樹をまだ慕っていた とても信頼していた頃に 何度も見た事のある、それ、だった。 自分の不可解な行動に ちょっと首を傾げながら ERに戻り、何もなかったように 仕事を始める。 ずっと憎んでいたオトコの 不器用な愛の形を この時初めて知った
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