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エントリーをして車がウィンクをした。 「あぁ、何も起こりませんように ……ぶつけませんように」 呟いて、祈る。 奇しくも今日は七夕で 願いが届くといいなぁ、と思いながら 運転席のドアを開けた。 七夕っていうのは 昔、昔のお話で 働き者だった織姫と彦星が結婚をして、 だけど、それが元で不精になって、 怒った天帝様が、天の川の両サイドに別れさせてしまった。 確かそんなお話。 だけど年に一度だけ、天の川に橋を架けて二人は会う事ができた。 あたし達は、今日を境に会えなくなる 年に一度も会えるかどうか分かんないし。 「どうか無事に……」 離れている間も 無事に過ごせます様に。 小さな願いだけど 大きな願い 七夕に願いを叶えるには 短冊に書かなきゃならないんだっけ? 書いてないけど是非聞き入れて欲しい 別れ際 若先生は言った。 あたしの唇を親指でスルリと撫でて “誰にも渡すなよ” そう言われて見上げた顔は いつものあの意地悪な笑みを湛えた 眼を細めて 唇の端を上げた あの顔。
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