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「涼せんせ………?」 眩しいくらいの月光は 見たいと思った顔さえも見せてくれないくらいの逆光線。 テーブルに置かれたグラスの中の氷が カラン、と音を出して均衡を破る。 「…やっと来たか」 暫くぶりに耳に響いたその音は いともかんたんにあたしの心臓のもっと奥をぎゅっと掴んだ。 「お、おかえりなさい」 嬉しさのあまり、言葉が旨く紡げないくらい、上ずってしまう有り様のあたしを フッと笑う音が聞こえた。 「何、緊張してんの?」 一度首を縦に振って、ハッと気付いて 慌てて横に振りなおす。 「どっちなんだよ」 からかうように言った後、グラスに口を付けた。 く、苦しい。 心臓の音も、血が身体を駆けずり回るのも、目の前のシルエットしか分からない男に全て支配されていて。 こんなに喉から手が出るくらい 触れたいと、 縛りつけられたいくらい 触れて欲しいという気持ちでいるのに 情けなくも、次の一歩が出ない。 それくらいに、苦しい。 他の誰に対しても こんな風にはならないのに 「こっち、おいで」 あたしを見ずに言った言葉にさえも キュンとしてしまうあたしはおかしいんだろうか おいでと言われても、足が動かなくて うまい具合に言うなら、そう、 金縛り。 人生初めての金縛りにこんなところで遭遇するなんて なんてツイテナイんだろう。
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