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いつまでも歩み寄ろうとしないあたしに
業を煮やしたのか次に掛けられた言葉は
彼にしては意外なもので。
「どうした」
今までだったら、きっと言う事が聞けないあたしに、罰だ、お仕置きだ、と言うような何かを更に上乗せしてきただろう。
「あの、」
こんな状態はあたしもさっぱり経験がなくて
「なに」
どうしようもない。
あ、声が出るのは金縛りとは言わないのか。
「えっと、ちょっと待ってください」
「待つの?」
「あ、足が…」
「あし?」
緊張?
違う?
嬉しくて?
久しぶりたから?
身体中が喜びすぎていて
一体どこをどう動かしていいのか全く分からないような。
「あぁ、なるほど」
若先生はそう呟いた後
ス、と立ち上がって歩いてきた。
シルエットだったそのヒトの
全貌が明らかになる。
暗闇で眼が慣れた事もあり、その出で立ちに震えがくる。
シャープになった顔立ちは
きっと向こうでの生活のハードさを物語っていて
Tシャツから覗く体躯は前よりも鋭くて
ますます洗練されてしまっていて
「痩せました、ね」
「アパートと病院とジムの往復だからな」
若先生の右手があたしの頬に添えられる。
心臓が爆発するかと思った。
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