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蛇口から流れる水 よく考えれば、起こるべくして起こった事で。 今までの大森先生から考えれば 不思議でも何でもない。 防ごうとしなかった あたしが、悪いんだ。 後頭部に大きな掌が滑り込むとほぼ同時に、唇が塞がれて。 冷たい、熱い、液体が流れ込んできた。 ビックリして、零しちゃいけない、という本能からか飲み込むしかなくて、大きな音を立てて嚥下する。 バーボンの濃いアルコールが喉に絡み付いて。 焼ける、そう思った。 ス、と離れた唇が次に紡ぎだしたのは 「帰るよ」 その一言だった。 大森先生は何事も無かったかのように蛇口のレバーを下げて水を止める。 今帰っても電車も無いし、ってあたしが、引き止めるのもおかしい。 まるで帰るな、って言ってるみたいで。 いい大人なんだから、タクシーくらい捕まえられる。 キッチンとリビングの明かりを消して、玄関へ向かう。 足元のフットライトだけに照らされた空間は異様な雰囲気で。 慌てて玄関ライトを点けた。 でも、それも逆効果で。 整ったパーツがあたしを見下ろすのがハッキリと分かってしまう。 「仮にも、好きな女と地続きの所にいて 何もせずに居られる自信が無い」 包み隠さずに気持ちをぶつけてくる大森先生。 あたしは次いで口を開いた。 「先生、先生の気持ちには一生、応える事はありません」 静かに、大森先生を見上げて言う。 「そうか。それは残念だ」 「そうですね」 バーボンの匂いが少し香る優しいキス。 唇を割って入ってくる温かい舌があたしを捉えて、その瞬間、腕を引かれて あたしは先生と壁に挟まれた。 今点けたばかりの玄関ライトがパチリと消える。
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