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重たい扉を開けると、空気の流れが変わる。 蓋をされていた部屋の圧力が解放されて、また直ぐに閉じ込められた。 またまた少し久しぶりのサンロ。 まだ早い時間だけど チラホラの混み具合い。 「蜜さん、いらっしゃい」 「あぁ、力くん、久しぶり」 「うん、カウンターでいい?」 頷いて、カウンターの端っこに腰かける。 ス、と革製のコースターが置かれて 「いらっしゃい」 山口さんがいつもと変わらない声を掛けてきた。 「こんばんは」 山口さんはタンブラーを用意して 生ビールを注ぎ始める。 山口さんは生ビールを3回に分けて注ぐ。 だから、一杯のビールは注文後、約5分経たないと出てこない。 今じゃ何回かに分けて注ぎましょう、っていうのは周知だけど。 「どうぞ」 ビールがタンブラーに収まる様子を 泡が落ち着く瞬間からずっと見ていた為、隣に座ったヒトに気付かずにいて。 同じく革製のコースターに 透明な液体の入ったグラスが置かれて初めて横を見た。 「ま、松本さん!」 松本さんはチラリとあたしを見ると直ぐに視線を戻してウォッカをペロリと舐める。 その綺麗な仕草にみとれて 慌てて気付いたあたしは、ビールをゴクリとあおった。 「おいしー!」 泡ひげを舐めながら、いつものように 感動に浸る。 「ホント、オッサンだね」 「いいんですよ、別に困ってませんから」 昼間の事は、聞き辛く しかも松本さんのプライベートにあたしは何にも関係がなくて、そこまで首を突っ込むのも躊躇われた。 はぁ、と溜め息を吐いた松本さん 「女もみんな、アンタみたいなオッサンタイプだと苦労しないんだろうな」 「は?」 珍しいかな、あたしを誉めたようで 誉めては無いけど、ちょっと誉められた感じがするのは気のせいか? それは昼間の彼女の事? 「だからー、オッサンじゃ無いですってば!」 「やっぱ女は女々しくて困る」 「………………」 タンブラーをコースターに置いて 松本さんの方を向く。
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