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「悪かったな、マジで」
ポツリと呟いて、今度は水のグラスをあおった松本さん。
この間
って言ってももう大分前だけど
ここでキスされた事あったっけ。
その時ですら感じなかったのに
今日のこの人に、とても男を感じた。
松本さんはあたしの中では凄く中性で
無害なヒトのように思っていた。
よくよく考え直すと、彼は立派な成人男子であって、オマケにぶっきらぼうだけど、面倒見がよくて。
あんまり意識したくなくて
それからは軽くでも酔っぱらおうと
ビールをいくつかお代わりした。
功を奏して、何気ない会話で盛り上がる間に、神様はあたしを試しているんだろうか、と思われる事態に発展。
店の奥のテーブルに着席した二人組
どこからどう見てもあの、噂のカップルだろう。
ギギ、とネジが閉められ過ぎている蝶番(ちょうつがい)が軋むように、あたしの首は不自然にその方向へ向かないようにする。
「ちょっと、不自然すぎ」
「で、すよねー」
「何?やっぱり別れたの?」
「……」
黙りコクったあたしを見てか見ずか
「ま、心配しなくていんじゃない?
涼は、心底アンタに向いてると思うよ」
「へ」
「あー、あー、何、そのしてやられちゃった、みたいな間抜け顔」
「は?」
ククツと笑う松本さんは続けた。
「涼はあんな女に靡かないよ」
「はぁ」
「美人は飽きるしね、アンタみたいなのはイジリ甲斐がいっぱいあるし」
「……松本さん、それ、誉めてませんよね?」
隣の松本さんを見上げると
酔っ払いの目で見るからか、いつもよりも3倍くらい優しげな表情で笑っている。
「誉めてるよ?
じゃあ、試してみる?」
「な、何をですか……」
ニヤリと笑った松本さんが次に取った行動は。
やっぱり、キス、だった。
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