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一瞬、触れた唇に驚いて
だけど、すぐに気付く。
ヤバい!!
ドン、と突き放して
走ってもないのに上がる呼吸を整える。
「な、なにすんだ!」
店内が混み合っていて
それほどは響かなかったが
ちゃんと松本さんには届いていて。
「後から楽しみにしてればいんじゃない?」
「何をっ!!」
「まぁ、そのうち分かるよ」
「がルルルル」
「あはははっ、おもしれー」
毛を逆立てたライオンのように
威嚇してみても、軽くあしらわれる始末。
あー、もーイヤだ。
簡単に、いっつもおんなじ展開になるのっていい加減どうなのよ!
自分の浅はかな貞操観念にイラっときた。
ってゆーか、んな簡単にキスとかしてくんなよ!
世の中の男!
ドン、と再び音がしそうな程
タンブラーをコースターの上に置く。
「蜜さん、タンブラーに当たらないの」
山口さんが、笑いを堪えながら
空のタンブラーを引き取って、今度は水を置いた。
「何故に、みず?」
怒りの勢いのままに山口さんを見ると
「もう、飲み過ぎ」
少し切れ長の目が、印象とは違う柔らかななモノになっていて。
ヴ、と次の言葉に詰まって
あたしの敗けが決定した。
「もう帰れば?」
横から追い討ちをかけるようにあたしを促すかけ声も。
いつもだったら店の奥に掛かった時計を見るんだけど、今日は見たくない。
時計を見るフリをして、隅のテーブルの二人を見てるみたいで。
こんな変なプライドはいらないのに
容赦なく育ってしまう。
仕方なくポケットからスマホを取り出して時間を確認する。
もう、10時を回っていた。
ここに来たのは6時だった気がする。
明日も夜勤なのに、飲み過ぎたかな。
少し反省をしながら
力くんにチェックを告げた。
ダウンコートを羽織ってレジの前に立つと後ろから伸びた一万円札。
「一緒に」
振り向くと
松本さんがコートを着て立っていた。
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