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規則正しく脈打っていた中心部が
一旦停止して
そんな事は実際には起こり難い事だが
身体中の血が逆流したかのように
皮膚の毛穴という毛穴が逆立ち
毛という毛が重力を無視する
今、お前、なんつった?
睨む
いや、睨んではいない
見据える
いや、そんな程度のものではない
大森はそこで初めて笑みを見せる
オレの心のうちを手玉に取ったかのように
若い頃のオレを髣髴(ほうふつ)させる
目の前の男
「貴方に真っ直ぐで、健気で、可愛い」
だけど
オレと違うところは
こうやって、ストレートに
こんな言葉を吐くところか
「では、失礼します」
オレよりも低い位置まで
律儀に頭を下げて
オレへの闘争心の無さを示し
戻ってきた時には
ソレが剥き出しになっていた
「大森」
「はい」
「その傷、化膿させてもいーことねーぞ」
その辺にしとけよ
深入りしても、お前が惨めになるだけだ
お前の牽制をカウンターで切り返して
何も言わずに数秒向かい合ったまま
そして、大森がそのまま立ち去るまで
その場にとどまったその時
手にした携帯が震える
‘間もなくタワー館入り口です’
もう既に手応えがない筈なのに
まだバイブレーションが続いているような感覚のスマホを見つめながら
オレは蜜が辿り着くのを待った
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