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数日後の深夜――
「うっ。いっつぅ…」
2階の部屋で寝ているとお腹がキリキリと痛み、目が覚めた。
子宮が締め付けられるような痛み――
「ついに…きたのかもっ」
――これは陣痛だ。
直感でわかった。
いつ生まれるかわからない赤ちゃんのために、1階の母屋にはすでに出産時の準備がされていた。
いきむための紐を天井からぶら下げ、布団も手拭も用意されている。
陣痛が来たことを誰かに知らせて、母屋に向かわなきゃ。
そう思いながら、痛むお腹を押さえて行灯(あんどん)に火をつけようとしていると
「陣痛が来たんか?」
と、起きてきたであろうお義母様が声をかけてきた。
「は、はい。
ものすごく、痛くて…」
「そうか。そりゃあ大変じゃ。
友次郎にも父さんにも私から伝えておくから、松枝ははよう母屋へ。
無理せずに向かうんだよ」
「お義母様…」
今までアタシには冷たく接してきたお義母様が、初めて優しい言葉をかけてくれた。
今までアタシの妊娠にはまったく興味も示さず、気にもかけてくれなかったのに…。
もしかすると、これから誕生する孫を楽しみにしてくれているのだろうか?
この子が生まれたら、もう少しはお義母様と良い関係を築けるだろうか?
痛みをこらえながら、小さな期待を抱きながら、アタシはパンパンに張った籠のような大きなお腹を抱えて母屋へと足を向かわせた。
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