第1章

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大歓声が聞こえる。 いままで、人がこんなに集まっているところを見たことがなかったので、はじめての雰囲気に圧倒されそうになる。 これが競馬場。 想像していたよりも、すごい場所だ。 暗い地下通路から急に日の当たる場所へと出たせいで、目が眩んでしまっている。 よく見ると、そこは小さなトラックのような場所で、外側には人が群れをなしてこちらを見ている。 なんだこれは。 時折パシャっと音がする、黒くて四角い物体をこちらに向けて人間は必死になっている。 すぐ目と鼻の先にいる無数の知らない人間に、ベータローは少し興奮していた。 「まるで見世物だろう」 すぐ前を歩いていた馬に話しかけられた。 「お前、このあたりじゃ見ない顔だな。レースに出るのははじめてか?」 「ええ、まぁ…」 ベータローは久々に知り合い以外と話をするので、少し口ごもってしまった。 「まぁ無理もねぇさ。オレはじめてここに来たときは、この騒音に驚いて何度も尻っぱねをしたもんさ。パドックは、人間に俺たち馬の調子や仕上がりを見せるためにあるのさ」 パドック… 話には聞いていたが、ここまで騒がしくて落ち着かないものだとは思わなかった。 「ここにいる馬たちは皆一度はレースを経験している。未勝利と呼ばれる、まだ一度も1着になったことのない馬がでるレースなんだ。お前みたいな新入りは、本当は新馬というレースにでるんだが…ちょうどいい時期のがなかったのかもしれんな」 そうか。やけに他の馬が落ち着いているように見えるのはそのせいか。同じ厩舎の馬たちから聞いた話によると、新馬からはじまって獲得賞金によってグレードが上がっていくらしい。
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