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私はなんだってできた。
運動も、ルールを覚えて少し練習したら大体できるようになる。
勉強も、なんとなく授業を聞いてノートをとったら大体解る。
男子は、何もしなくても寄ってきた。
そして、周りの人間は、私を稀な美少女だと誉めそやす。
色素の薄い絹糸の様な長い髪、すらっとした綺麗な四肢、小さい顔に対して大きな瞳、形がよくぷっくりとした唇に、滑らかな白い肌。
おかげで女子に疎まれるようになり、しかしそれも慣れてしまった。
そんな私、葉香里美琴(ハカリ ミコト)は、高校入学を目前に控えた4月の始め、とある店を訪れていた。
その店は、特に目立つわけでもなく、ひっそりと佇んでいたが、なんとなく気になり入ってみたのだ。
古民家風な外見と同じく、まるで住居の様な店舗には、その古くも暖かい雰囲気に全くそぐわない品々が陳列されていた。
私はぐるりと店内を見回す。
どうやら店主は不在のようだ。
しかし、店は開店しているのだから構わないと思い、私は店内を物色し始めた。
「これ、なんだろう」
私が手に取ったのは、黒い毛がわさわさと付いている、型の決まった布のような物。
丁度、頭がすっぽり収まる程度の姿形をしている。
それを持って首を傾げていると、ふいに背後から声が掛けられた。
「お嬢さんは、何をお探しかな?」
急な事に驚いて振り返ると、店の雰囲気と良く合った、朗らかな男性が立っていた。
「あ……お邪魔してます。探し物ではないんですが、これ、なんですか?」
「それはカツラだね。探し物はみつかったかい?」
私は僅かに眉を潜めた。
すると、男性は優しく微笑む。
「ここは願いがないと入れない店。貴女の願いを叶えるモノが、ここにある」
私は思わず、手にしたカツラを見る。
願いがカツラ?
男性は肩を竦めて苦笑した。
「と言っても、オカルトなモノは一切関わっていない。この店にあるのは、どこでも売っている普通のモノだ」
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