忘れ得ぬ一夜

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 カウンター席に座り、棚にズラリと並ぶお酒の瓶を順に眺める。 「お客様、ご注文はお決まりですか」 「ええと……」  下段にある色とりどりのカクテルリキュールの瓶を目で追い、上段へ。  ふと、あるお酒に目が留まった。 「そうね、ジントニックお願いします」 「……かしこまりました」  バーテンダーが返事をするまで、数秒の間があった。  おそらく私が目を留めたお酒に気がついたんだろう。  グリーンの瓶が美しいタンカレー。度数が高くて、私はトニックウォーターで割った方が好きだった。 「久しぶりなの。楽しみだわ」  タンカレーは、達哉が好んで飲んだお酒だった。
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