忘れ得ぬ一夜

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 頭に浮かんだ光景を消しさるようにグラスを呷れば、あっという間に空になる。 「すみません、同じものを」  私は、カウンターの中を忙しく立ち回るーテンダーに声をかけた。  カウンターにもたれ、一人ため息を零す。  達哉の結婚相手なんて、私にはそうそう思いつかない。  でも子どもの生まれる時期から考えても、達哉が結婚相手と私とを天秤にかけていたのは確実だ。  一緒に居て、何も気づかないなんて……。  自分のあまりの不甲斐なさに、さっきよりも深いため息が零れた。  そして今日、一つだけはっきりしたことがある。  たぶん達哉は、はじめから私を選ぶ気なんてなかった。 「子ども、だなんて……ね」  あの達哉が、そんな『失敗』をするはずがない。  少なくとも私との行為では、達哉がそんなふうに我を忘れることなんて一度もなかったもの。
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