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 編入生が動くと、あたりの景色がゆらぐようだった。身体だけでなく、雰囲気にも異様な圧迫感がある。これが実戦経験の差なのだろうか。タツオはこの同級生が何人の敵を殺したのか考えざるを得なかった。きっとほかの生徒もみな同じだろう。 「さて、第一次世界大戦から授業を始めよう。サラエボ事件について、要約しなさい。菱川(きしかわ)、どうだ?」  ジョージは立ちあがると最悪の世界大戦になだれこむ契機となった皇太子暗殺事件について、流れるように話し始めた。  カザンはその日の授業中、タツオと決して目をあわせなかった。浦上幸彦が死亡したことはサイコから報告されているはずだ。このままわだかまりを抱えて、新学期を過ごすことはできなかった。  放課後タツオはジョージを誘い、カザンの部屋を訪問した。扉をノックすると、鋭い返事が戻ってくる。 「誰だ?」
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