69人が本棚に入れています
本棚に追加
カーテンがぱたぱたと旗めきながら窓におおいかぶさった。階段をかけのぼってきた男の子は、部屋に踏み込んで目をまるくした。
「何があったの? お兄ちゃん!」
冬の夜の閑静な住宅街。太陽はとうに沈み、子供が寝支度をはじめるころ。とある家の二階の部屋に返事はなかった。バラエティー番組のあかるい声が、階段のおくから絶えず聞こえている。
蛍光燈があたりを青白く照らして、ところどころに黒い影をつくっている。一面にひろがるのは、教科書やプリントの海。うつぶせの本棚。突然止まったストーブのかおり。あまり広くない部屋なので、これでいっぱいいっぱいだった。
部屋中をあちこち動いているのは、小学校高学年くらいの男の子だ。「返事してよ! どこなの?」と呼びかけながら、プリントを舞いあげたり、本棚を起こしたり。
そのとき、彼の背後でうめき声がした。ふりかえって見る。ベッドの裏だ。
「まってて、いま出すから」
ベッドは横倒しで壁にもたれていた。床におろすと、布団にうもれた少年が顔をあげた。
「ありがとう、深樹」
「ああ、よかった」
「ミイくん! はるくん! さっきの大きな音、なんだったの?」
テレビの音に声がかさなった。階段からだ。不安なのだろうか、ことばの端々がふるえている。
深樹と呼ばれた弟が先に答えた。
「お兄ちゃんは平気みたい!」
はるくんと呼ばれた兄が、ベッドから飛びおりて言った。
「なんとかなるよ、ママ!」
話が咬み合っていない。
「何があったのよ!」
「あ、そうだそうだ」
「えっ、なあに?」
深樹が言い、兄が訊き返した。答える気はないらしい。
まじめな顔をして、深樹はつづける。
「この部屋、どうしちゃったのさ? パーティーの前に来たときは、こんなめちゃくちゃじゃなかったじゃん。ものすごい音で、びっくりした」
弟をベッドに坐るよううながして、話しはじめた。
「うん、それがね」
最初のコメントを投稿しよう!