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荒れ果てたちいさな部屋で、はるくんは血まなこになってどら焼をかき集めている。包みをすばやく拾いあげては、キズや凹みがないか、ハラハラしながら確める。
深樹も立ち止まって、落ちていたガラスの欠片を拾った。
「本当にあったんだ……」
話がウソでないことは、この部屋を見れば明らかである。部屋が閃光に満ち、人やベッドを軽々と吹き飛ばす突風が、現実にここで巻き起ったのだ。
兄がどら焼を胸いっぱいに抱えて、部屋を見渡した。
「なにが原因かは、俺もわからないけどね」
深樹はガラスを握りしめた。
「どこが原因かは、わかるよ」
兄は目を丸くした。
「……どうしてわかるの?」
深樹は「だって」と、さっきのベッドを指さした。
「部屋を見てみて。ベッドも本棚もプリントも、おんなじほうに動いてる。みんな、ドアのほうに近づいてる。お兄ちゃんも吹き飛ばされたんでしょ?」
兄はアッと声をあげた。
「じゃあ、風上は飛ばされた方と逆……東か」
「それに、ほら。これも」
はるくんの手のひらに、深樹がガラスをのせた。
「これって……窓?」
「もし部屋のなかで爆発したなら、ガラスは家のそとに飛び散るはずじゃん。でもこれは家のなかにあった」
「つまり……答はここだ!」
はるくんがカーテンを開けた。
「あれれ?」
深樹も割り込んで、のぞき込む。
レースカーテンがなぜか二枚重ねになっている。白い薄手をもたもたと開けると、手前のとそっくりの青いカーテンが、もう一枚現れた。青、白、白、青。全部でカーテン四枚重ねだ。
「何これ……お兄ちゃんがつけたの?」
「俺、知らない。さっきは二枚だった」
深樹が四枚目のカーテンを開ける。かと思えば、すぐ閉めなおして、ずんずん後ずさり。
「なになに、どうしたんだよ」
腰をぬかして、深樹は窓を指さし、口をぱくぱく。何かを言いかける弟を横目に、はるくんはカーテンをのぞき込む。
窓の向こうに、いったい何があるんだろう?
この時間は、いつもなら夜の住宅街が見渡せるはずだ。でも、隙間からは見え隠れするのは青白い光。外はかなり明るいらしい。
最後のカーテンを、はるくんは開いた。
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