第1話 幕開け

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 荒れ果てたちいさな部屋で、はるくんは血まなこになってどら焼をかき集めている。包みをすばやく拾いあげては、キズや凹みがないか、ハラハラしながら確める。  深樹も立ち止まって、落ちていたガラスの欠片(かけら)を拾った。 「本当にあったんだ……」  話がウソでないことは、この部屋を見れば明らかである。部屋が閃光に満ち、人やベッドを軽々と吹き飛ばす突風が、現実にここで巻き起ったのだ。  兄がどら焼を胸いっぱいに抱えて、部屋を見渡した。 「なにが原因かは、俺もわからないけどね」  深樹はガラスを握りしめた。 「どこが原因かは、わかるよ」  兄は目を丸くした。 「……どうしてわかるの?」  深樹は「だって」と、さっきのベッドを指さした。 「部屋を見てみて。ベッドも本棚もプリントも、おんなじほうに動いてる。みんな、ドアのほうに近づいてる。お兄ちゃんも吹き飛ばされたんでしょ?」  兄はアッと声をあげた。 「じゃあ、風上は飛ばされた方と逆……東か」 「それに、ほら。これも」  はるくんの手のひらに、深樹がガラスをのせた。 「これって……窓?」 「もし部屋のなかで爆発したなら、ガラスは家のそとに飛び散るはずじゃん。でもこれは家のなかにあった」 「つまり……答はここだ!」  はるくんがカーテンを開けた。 「あれれ?」  深樹も割り込んで、のぞき込む。  レースカーテンがなぜか二枚重ねになっている。白い薄手をもたもたと開けると、手前のとそっくりの青いカーテンが、もう一枚現れた。青、白、白、青。全部でカーテン四枚重ねだ。 「何これ……お兄ちゃんがつけたの?」 「俺、知らない。さっきは二枚だった」  深樹が四枚目のカーテンを開ける。かと思えば、すぐ閉めなおして、ずんずん後ずさり。 「なになに、どうしたんだよ」  腰をぬかして、深樹は窓を指さし、口をぱくぱく。何かを言いかける弟を横目に、はるくんはカーテンをのぞき込む。  窓の向こうに、いったい何があるんだろう?  この時間は、いつもなら夜の住宅街が見渡せるはずだ。でも、隙間からは見え隠れするのは青白い光。外はかなり明るいらしい。  最後のカーテンを、はるくんは開いた。
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