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――
ヨラン少年はこのオアシスにたった一人で暮らしていた。
町に身寄りはない。
ただ唯一、気が付いたころから一緒にいるのはロハスだった。
ほぼ野性児のような生活だ。
金と言う概念も知らず、食糧をくすねて生きていた。
パン屋のパンの味も、金で買った味ではない。
身を包む白い服はすっかり汚れてボロボロになっている。
靴も成長に合わず、まるでサンダルだ。
ヨランの「家」はオアシスの外れにある。
岩をくりぬいた洞で、不気味な竜の頭骨が洞を守るように鎮座し、旅人の間では呪われるとして誰も近付かなかった。
家の中には食糧を保存する壺が置かれ、それ以外は寝床にしているただの布きれがあるだけだ。
くすねてきたパンに香辛料を一つまみふりかけ、かじる。
ろくなものを食べていないが、ロハスの水のおかげで肌つやはよかった。
猿のように洞の上までよじ登りオアシスの方を眺めていると、人だかりができ騒ぎが起こっているのが見える。
「んん? なんだ、ありゃあ」
ヨランは口にパンを押し込み、リスのように頬を膨らませながらオアシスへ走って向かった。
ロハスから流れ出る川が不気味な赤みを帯びている。
川の周りには野次馬が壁を作っていた。
水を汲む瓶を持った主婦が、主婦仲間と眉をひそめて顔を見合わせる。
ある老人は祟りだと騒ぎ立て、ある旅人は野次馬の後ろで爪先立ちをしている。
ヨランが川に着くと、ロハスを抱えた男達が洞窟から出てきた。
その後ろから髪を束ねた男が姿を現す。
烏合の衆がざわついた。
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