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腰にぶら下がる短剣がかすかに赤く、妙な臭気を帯びている。
服は返り血で染まっていた。
彼らが闊歩するその後ろから川が枯れていく。
草原のようだった草木も後を追うようにしおれ始めた。
恐れおののき、野次馬は蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑った。
オアシスの終焉は彼らの死を意味する。
最寄りの川は、生きるための水は遥か彼方だ。
そして少年の目の前では、オアシスの心臓、ロハスを掲げる殺人鬼達がせせら笑っている。
盗賊団は瓶を巨大なトカゲの背中に括りつけると、砂煙を立て風のように去って行った。
「遅かったか」
黒いマントの男が、尻餅をついて茫然とするヨランの背後で呟いた。
旅の黒マントの男はあたりを見回す。
枯れた川の傍には、他にも絶望し、ヨランと同じように空を仰ぐ者が点々としている。
マントにヨランの小さな手がしがみついた。
「これからどうなるんだ、俺は……」
男は初対面の少年を見下ろすと、目を細めた。
「……生き延びたければ付いて来い」
偶然だった。
男の口からそんな言葉ができてきたのはただの気まぐれだった。
少年の脇を通り、男は砂漠へ足を踏み入れた。
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