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ヨランは伸びをしてぼーっとした頭を掻くと、思い出したように胸元を探った。
白いボロボロな服の内側から出てきたのは、スカラベを模した黄金のペンダントだ。
触るとほのかに暖かい。
これを見た途端、安堵の息を吐いた。
「目覚めたか、寝坊助」
低い声がした。
部屋に現れたのは少女ではなく、黒いマントの男だ。
黒い服で長身痩躯の身に包み、切れ長の目は暗い。
黒い髭、黒い蓬髪、頬はこけ、危険な雰囲気を醸す男だ。
「お前は……」
ヨランは怒りに震えた。
後ずさり、歯を立てる。
「この人殺し!」
ヨランは立ち上がり、男の服に掴みかかった。
少年の胸元で黄金のペンダントが踊る。
男の目が黄金のスカラベに向けられる。
「頭を冷やせボウズ。お前が選択したことだ」
「何を!」
「や、やめて!」
ちょうどスープを運んできた少女が声を上げる。
ヨランは駆け出し、宿から出て行った。
「まだじっとしてなきゃ……! もう。どうしたのかな、急に」
男はゆっくりと床に腰かけると、少女を見上げた。
「追いかけてやれ」
少女は頷くと、少年の後を追った。
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