第1章

2/11
前へ
/11ページ
次へ
あの頃は、毎日部活と塾とピアノで忙しかった。 そんな中ほっ、と一息つけた時間。 それは塾の帰り、夜空を見上げながら歌うこと。 あれは確か10時30分頃。 受験生の夜はそよめく流れに身を任せたり、突き刺すような風に首をすくめたり。 わかる星座は夏の大三角形とオリオン座だけ。 それでも目を凝らして遠すぎる光を見つけるのは楽しかった。 1人で誰にも見られてない時間は限りがある。 さっと周りを見回して、誰もいないことに安堵して……。 上を見ながら、歌う。 ただ、それだけ。 スリルがあって、好きだった。 他の人には言えないし、言いたくもない。 ちょっとした贅沢だった。 まさかそれを見ている人がいるなんて思わなかった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加