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「あーもう、何よこれ。意味が分からないわ。どうやったら東雲くんにメールが送れるのよ」
「……いや、うん。メアドも知らねえのにどうやって送る気だったんだお前は。……貸してみ」
「仕方ないわね。感謝しなさい」
「アリガトウゴザイマス」
ツッコミを入れる元気はない。
「はいよ。アドレス帳に登録しといたから、ここをタッチしたらメールが送れる」
「ご苦労様。それじゃあ私、今日は帰るわ。また明日ね、東雲くん」
「……ああ、また明日」
どうやら山下は僕にメアドを教えるつもりはないようだ。まあ向こうからメールが来るのを期待しよう。
……そういえば、疑問点が一つある。今、確かに携帯持ち込みに関する議題が可決されたから『携帯電話持ち込み禁止』という校則は消えてしまった。正確に言えば消える途中のグレーゾーンではあるが、先生に没収される事は無いだろう。
まあそれはいいとして、疑問という名の問題。何故山下はそれを知っていたのか。
ぶっちゃけ山下はメル友なんていないだろうし、時間的に高野の友人が高野にそれを報告し、さらに高野がそれを山下に……なんて事は無いはずだ。なのに、何故……?
疲れた頭を必死に働かせていると、ポケットに入れていた携帯のバイブレーションが作動した。確認すると『新着メール:一件』の文字が一つ。
宛先は知らないメールアドレス。規則性の無いアルファベットと数字の羅列。
もしかしてと思いそれを開封すると。
『私、紙を伸ばしてみよと思つてる』
その短い文章に埋め込まれた誤字の嵐に、僕は眉間に皺を寄せる彼女の姿を想起して、堪えきれずに笑った。爆笑した。
どうやら僕の青春は、まだ終わっていなかったらしい。
おわり
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