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「んで、もう一度聞くが山下。お前は髪伸ばさねえの?」
「そうね……暑いから好ましくないわ。手入れも面倒だし……これがもし、植えれば勝手に育つタイプの植物であれば話は違ってくるのだけれど」
「僕は自分の髪を植物のように語る女、お前以外に知らねえよ……」
何となく二宮の気持ちが分かったような、全く違うような。
「何。東雲くんって、実はロングが好きなの?」
「別に隠しているわけじゃないけど、まあそうだな」
「いやらしい。どうせベッドで広がる様を連想しているのでしょう?」
「ロング好きでここまで一方的な罵倒を受けたのは初めてだッ!!」
確かに女性らしさは感じるけれども! だけどそこまで考えてから好きになったわけじゃねえよ! 深層心理は知らんがな!
「……なあ、山下。一つ聞いていいか?」
「何よ、薮からスティックに」
いや、それはもういいから。
「高野に告られたって本当?」
ぴくっ、と僅かに身体が揺れ、僕の数倍の速度で動いていた腕が止まった。だが山下はこちらを一瞥する事なく再度作業に戻った。
「どうしてそんな事を聞くのかしら?」
「なんとなく」
ここでお前が好きだからと言っても、どうせ真意は伝わらないだろう。むしろふざけてるとか言われそうだ。
「あまり人のプライベートに突っ込むのは関心しないわ、東雲くん」
少し、ほんの少しむっとした。きっと僕は、少なくとも男の中では誰よりも山下と親しいと思っていたから、どこか疎外感を覚えた。端的に言えば嫉妬した。
感情とは怖いもので、ブレーキの効かない暴走車みたいなもの。僕はつい、うっかりと、全く思っていないような事を口走ってしまった。
「付き合えばいいじゃん」
「……え?」
「付き合えばいいじゃん、って言ったんだよ。イケメンだしさ、将来性もあるよ」
僕なんかと違って、と言外に込める。
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