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「お似合いだよ。山下ってどこか抜けてるからさ、高野に引っ張ってもらえば丁度いいさ。僕も応援するよ」
もしかしたら否定して欲しかったのかも知れない。そんな事はないよって。そうしたら僕も安心して軽口を叩けるし、そうすればちょっとギスギスとしたこの空気も霧散し、再び僕たちは仲の良い友人として話せる。だから僕は、僕を否定して欲しかった。そんな事はないよって。
だけど。
「そうね。東雲くんが言うならそうかも知れないわね」
言って、彼女は立ち上がった。筆記用具を鞄に入れ、すたすたと扉に向かって歩く。
「お、おい、山下。どこに行くんだ?」
「高野くんに返事をしに行くのよ。応援してくれるのでしょう?」
にっこりと笑って、彼女はそう言った。そう言って、去って行った。
残された仕事は多くない。でも、残された僕は?
「嗚呼……くそ」
こんなにも自分の性格を呪った事は無かった。最悪だ。売り言葉に買い言葉なんて言葉はあるが、今のは僕が悪い。むしろ僕以外に誰が悪いというのか。……強いて言うなら高野か。くそ、高野の馬鹿野郎。なるべく苦しんで死にやがれ。そして数秒前の僕、全力で苦しんで死ね!
必死に呪詛を呟きながら、僕は提案書を完成させた。
「実は、さ、しのしの。私、前からしのしのの事が好きだったんだ……」
ふと僕は、とある有段者の言葉を思い出していた。
空手とは無差別な殴り合いではなく、型の応酬であるらしい。だから初心者は経験者に空手では絶対に勝てない。経験者からすると初心者は、じゃんけんで言うならゆっくりとパーとかチョキを出していて、別に後出しは負けなんてルールは無いから、経験者はそれに合わせてチョキやらグーを出せば百パーセント勝てるとの事。
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