はじまり

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 ばっさりと、僕がしつこく執拗に提出し続けてようやく昨日通った案が切り捨てられる。嘆かわしい事だ。僕はここ数日寝る間も惜しんで携帯持ち込みに関する提案書を直し続けたというのに。 「え、えーと、今の内容に意見がある方は挙手をして下さい」  もちろん手を挙げる人間はいない。そこかしこで文句の声はあるが、わざわざ挙手をする人間は皆無だ……僕を除いて。 「あ、ではそこの方にマイクを……はい、お願いします」  僕の元へとマイクがやって来る。もちろん意見を言うのは僕だし、内容を考えたのも僕だ。山下はこの場にいなかった。二宮の情報によると今日は高野との初デートであるらしい。 「あー、えーと、東雲です」  あ、クラスとか言わないといけないんだっけ。まあいいや。 「先ほどの言葉に意見させていただきます。……先ほど先生は『七名の生徒が、携帯を鳴らして没収されている。これが一人もいなければ譲歩出来るが、そうでない以上無理だ』と仰いましたが、これは少々横暴なのでは? と思いました。何故かと言いますと、既に『携帯を持って来てはいけない』という土台があるからです」  いったん言葉を区切る。少し喉が渇いたが、潤すわけにもいかないだろう。 「生徒たちが何か自業自得な事をしたのならまだしも、大多数の生徒は何もしていないのに最初から禁止されています。そして一部の生徒が携帯を没収されたとして、全員を取り締まるのは少し厳しすぎるのではないでしょうか? 言うなればそれは、誰か一人が飲酒運転で検挙されたから、日本の国民全員が車を運転する資格を剥奪される……そんな理不尽な事と同じように思えます」  話は大分飛んでしまっているが、おおよそ間違いじゃないだろう。論争は正しいか正しくないかではなく、それっぽいかそれっぽくないかの勝負だ。一部先生たちもなるほどとばかりに頷いているから、別に構わないだろう。 「なるほど。だが別に、中毒じゃないんだから学校で携帯を扱う必要はないだろう。どうしても連絡が必要なら公衆電話を使えばいい。学校にもあるし、言えば事務の電話をタダで使う事も出来る」  正論だ。先生のそれは正しい。実際、僕がさっき言ったような言葉は過去の生徒総会でも上がっていた。そして同じような言葉が返されていた。そこでこの議題は終わる。
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