はじまり

14/16
前へ
/16ページ
次へ
 だが、僕は終わらない。そのやり取りを知っていて、何故ここで終われようか。ここまで僕が全力で取り組み、なんの解決策もないまま当日を迎えるか……そんなわけが無い。何せこの戦い、僕の青春がかかっているのだから! 「お言葉ですが先生、それは携帯をあまり扱わない人間の言葉です。今の時代、若者にとって携帯は必需品です。手放せないものなんです。……それこそ、中毒のように」 「だけど死にはしないだろう」  出た! 投げやりな言葉だ。死にはしないだろう。そんな事を言ってしまえば議論もクソも無い。それはこの場で発してはいけない言葉であった。特に湯吹先生の場合は。 「そうですね、死にはしません。だから携帯の持ち込みは不要。……だったら先生、学校の喫煙所もいらないですよね?」  湯吹先生は相当なヘビースモーカーだ。それは事前に調べる必要も無いくらい周知の事実であった。 「百害あって一利なし。しかもここは高校です。大半の人間は成長途中で、喫煙は許されない。ここのメインは僕たち生徒で、未成年の学生だ。だというのに端とは言え生徒が通る廊下に漂う副流煙……湯吹先生はこれについてどう思われますか?」 「いや、それはその……」  詰まった。この時点で僕は、勝ったようなものだった。 「あー、疲れた」  別に僕は好んで前に出るタイプじゃない。なのにこうもごりごりと前に出て何十分もしゃべれば肉体的にも精神的にも疲労する。つかもう二度とあんな事はしない。確かにみんなに感謝され、見知らぬ先輩からジュースを奢ってもらったりしたのはラッキーではあったけど。  ……まあでも、これで僕の青春は終わった。あんな事件がなければハッピーエンド……いや、あんな事件が、山下と高野が付き合うという事件があったから僕もここまで本気になれたのだ。  山下のメアドを知る、ただそれだけのために。  学校の外で聞けばいいけど、僕と山下はそんなに近くなかった。そこらの友人よりは親しい関係だというのに、男と女という性差が僕たちを遠ざけていた。だからこそ学校で僕たちは親しかったのだ。だからこそ……僕は山下に、携帯を持って来させたかったのだ。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加