はじまり

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「しっかしさ、こんなにも出るもんなんだな、要望って」 「東雲くんは何か要望とかないの?」 「僕は別に求めるものなんてないなぁ。現状に満足しているわけじゃないけど、かといって変えようとも思わないし」  学校なんてそんなものだろ。良く言えば子供たちの溜まり場、大人の養成所。悪く言えば動物園。育てようとしている癖に、出た杭は容赦なく打つ。足並み揃えてさあ大人の世界へゴーってね。JIS規格かよ。 「その割には提案書の一番上、女子のスカート丈に関する要望になっているけれども」 「……そう邪推するなって、たまたまだよ」  ……まったく。 「どうしてバレた!?」 「心の声が漏れているわよ」 「しまった!」  だが時既に遅し。山下の僕を見る目は冷ややかなものとなっていた。もしもこれが本当に冷気を発しているのなら、夏場の今大変重宝するだろうなんて馬鹿な事を考えつつ、僕は仕事に没頭するフリをした。もちろん提案書の位置を変える事などしない。 「……一周回って感動さえするわ」 「いやー、照れるね」 「後で殺すわよ」 「殺害予告!?」  そこは普通、褒めてねえよ! ってツッコミが入る所じゃないんですか!?  しかも後で殺すって、しっかりと仕事はさせようとする辺り物凄く冷静じゃないか! 「あー、山下は要望とかないのか?」  あからさまな話題逸らしではあったが、優しい副委員長様は黙ってその話題に乗ってくれた。 「そうね……仕事の出来ない委員長を変えて欲しいわ」 「ぐさっと来た! 今確かに突き刺さった!」  欠片も優しくなかったぜ! というか砕かれた優しさの欠片が突き刺さった感じだね! 「……冗談よ。相棒が東雲くん以外の人なんて、私嫌よ」  どきっ、と心臓が跳ねた。
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