はじまり

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 それでも僕は委員長になった。何故か。そんなものは少しでも想像力のある人間なら分かるはずだ。  そう、僕は山下に……共感を覚えた。友情を抱いた。  ああ、一目惚れとか恋だとか、そんな感情はもちろん抱かなかった。ただ僕は山下を仲間だと思った。それとなく山下に、お前は他人を見下しているか? と聞けば彼女は曖昧に笑った。沈黙は答えになる。  何度も言うが僕は彼女の事を可愛いとは思うが決して恋心は抱かなかった。  だけど友人として付き合っていくうちに僕は彼女に惹かれた。その衝撃からすると轢かれた、の方がより正しいのかも知れない。何せ事故なのだ。右を見て左を見て、また右を見て歩き出せば、反対側の歩道からダンプカーが突っ込んで来たような理不尽で回避のしようがない事故。  無論そこら辺の女子を可愛いなと思う事はしょっちゅうある。僕も男だ。しかし恋をした事はなかった。性的な欲求などなしに、ただ隣に居たいと思ったのは初めての出来事であった。だからこそ戸惑い、迷い、躊躇ったのだ。  でもまあ、「そういう事もあるか、人間だもの」と春を売る少女の軽さで唐突に訪れたその不可避のダンプカーを受け止め、弾き飛ばされ、僕は死んだ。生まれ変わったのだ。そして……告白をした。捻りも無い、直球な言葉だった。僕は目前の店に行くために五度角を曲がるくらいの勢いで遠回りな言動をする事が多々あり、彼女は僕の真意を読み取ろうと懸命に頭を働かせた。だが答えは出なかったようで一言「どういう意味かしら?」と負けを認めたのだった。  君が好きだ、という言葉の意味を彼女は理解出来なかったのだ。  馬鹿ではない。彼女は頭が良い。それはもちろんIQ的な意味でもあるしPQ的な意味でもある。……ああ、そういえば今はPQじゃなくてHQか。まあそんな事はどうでもいい。つまるところ彼女は頭が良いために、僕の言葉の真意を理解出来なかったのだ。  今もそうだ。さり気なく告白をしてみたというのに、「ダウト」の一言で片付けられてしまった。  無念である。いや、無情と言うべきか。  僕はこの性格でなければ山下を好きになる事は無かったのだろう。だがこの性格の所為でその思いは届かないのだ。
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