紫陽花

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君は微笑んだ。 雨に濡れる海色の紫陽花を見て。 肌にまとわりつくような空気が 好きだという。 細くなった手首が僕の頬を触ろうと ゆっくりと上がっていく。 白い雪色の冷めた指先の感触。 僕はその手にそっと手を重ねて 唇を当てた。 君はふわりと力なく微笑む。 今度は僕が君の頬に触れる。 決してふっくらとは言えないその感触 確かに、ここにあるんだと、心臓が叫んだ。 君の瞳から溢れたものは愛で満たされていた。 ゆっくりと頬を伝って、 白いシーツにシミが広がっていく。 ”40年 あっというまね ありがとう あなた” 耳を塞ぎたくなるような機械音 君の手は僕の頬からすべり落ちていく まだ残る君の温かさを できるなら手放したくなかった。 僕の頬を伝う雫も君への愛で 溢れていたんだ。 海色の紫陽花を見て あの頃、君は言ったんだ。 ”紫陽花が好き。 あなたの好きな色をした あの紫陽花が好き” 30年も前の話だよ。 君はまだ覚えていたんだな。
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