模造の声

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私には幼稚園の頃からの親友がいます。 名前はA子といいます。 A子は美人で頭も良く、優しい性格で、誰からも好かれる人気者でした。   高校に入学して、しばらくしてのことです。 クラスの男の子から、面白い話があると声を掛けられました。 「E組にY子ってやつがいる。ちょっと見にきてくれないか」 どうしてその男の子が、私に声を掛けたのかは、Y子の後ろ姿を見てすぐに分かりました。 Y子の髪型は、A子とそっくりだったんです。 いえ、長さや分け目の位置など、どこをとってもまったく同じでした。   A子は自分の容姿や成績を自慢するようなことはありませんでしたが、母親譲りの美しい黒髪は、何よりの宝物だとよく私に話してくれていました。 その黒髪は、長身で色の白いA子の美しさを際立たせていましたが、同じ髪を持つY子は、足が短く太り気味で、浅黒い肌をしていましたので、黒髪だけが美しいその容姿は、周囲の失笑を買っていたようです。 「E組の連中から聞いたんだが、あいつ、先週くらいからA子の真似をし始めたらしいぜ。あの髪はカツラだってよ」 なあ、面白いだろ、と意地悪く笑う男の子を、私は不快に思いました。 女の子であれば、誰だって可愛く魅力的になりたいと思います。 そのために身近な人のメイクやファッションを真似しようということは、ごく当たり前のことです。 それを、Y子の容姿が悪いからといって笑いものにすることは、人として恥ずかしく思うべきことです。 私はこのことをA子に話しました。 A子は「私の真似なんて、それが本当なら、少し恥ずかしいけど」と笑っていました。
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