模造の声

その日は、Ａ子は委員会の仕事で居残りだったので、私は図書室に本を返却してから、教室でＡ子を待っていました。

誰もいない教室は、夕日で赤く染まっていました。
ぼーっと携帯電話をいじっていると、後ろの扉が開く音がしました。

「ごめん、お待たせしちゃったね」

いつものＡ子の声がして振り向くと、そこにはＹ子が立っていました。

「委員会の仕事、終わったよ。帰りに寄り道していこっか」

Ｙ子はのんびりとした聞き取りやすい声で、胸元の少し下で手を振りました。

「……Ｙ子さん？」

私が呟くと、Ｙ子はこつんと頭を叩いて、苦笑いをしました。

「バレちゃったか。さすが幼馴染だなあ」

Ｙ子はそう言うと、長い黒髪を揺らして、教室を出て行きました。

私の背中には、冷たい汗が流れていました。

「ごめん、お待たせしちゃったね」

しばらくして、Ａ子が戻ってきました。
Ａ子はのんびりとした聞き取りやすい声で、胸元の少し下で手を振りました。

「委員会の仕事、終わったよ。帰りに寄り道していこっか」

私はさっきのことを、Ａ子に話しました。
念のために、ご両親にもお話して、身辺に気をつけた方がいいと伝えました。

その日の夜遅く、Ａ子の母親から電話が入りました。
Ａ子が外出したまま戻らず、どこにいるのか知らないかとのことでした。

Ａ子の遺体は、４日後、隣町の用水路で見つかりました。