第三章 『失われた龍』

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それと同時に、『ホームズ』と異名をとるあの男・家頭清貴の言葉が浮かぶ。 “秋人さんの『富士越龍図』は北斎が死ぬ三か月前に描いたものとされています。 北斎は数え九十でこの世を去るわけですが、そんな北斎の最期の言葉は『天我をして五年の命を保たしめば、真正の画工となるを得うべし』と。 つまり、あと五年生き永らえることができたら、本物の絵師になれたのにと。 死ぬ間際に来て、なおも絵を描きたいと、極めたかったと口惜しんだ彼は本物の芸術家だったのではないでしょうか。 梶原先生は、秋人さんに、 『芸の道が本当に好きなら、そのくらいの気持ちで取り組めと。半端な気持ちでいるなと。そして描かれた富士山のように日本一に、天を昇る龍のようにスターになれ』 と伝えたかったのではないかと思います。 きっと、口にはできなかったものの、あなたのことを応援していたのでしょう” ホームズから伝えられた父の想いを思い出しては、また、目頭が熱くなることを感じた。
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