第1章

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「誰の背中?」 しばらく集中して描いていると後ろから声を掛けられ少し驚きつつ振り向くと比嘉先生がヤカンの中の水をラッパ飲みしている。 「これ…は……秘密です。」 比嘉先生は僕に視線だけ向けてヤカンを置いた。 いつも無口で必要最低限の言葉しか口に出さないような人だ。 比嘉先生はとても格好いいのに普段は前髪が長くてその良さがわからない。 でも絵を描く時は邪魔なのか前髪をゴムで結んでいるから整った顔がよく見える。 「比嘉先生のはどこの風景を描いたんですか?」 「パリ」 「え!?パリ!?」 そう言えば比嘉先生はすごく有名な美術大学に行っていて、どこかへ留学したと先生が噂していたような…. 「比嘉先生の作品、好きです。なんかここら辺がほわっとして幸せになります。」 先生の絵はタッチが柔らかくて優しい印象を与えてくれる。 この作品の風景も水彩画だからかふんわりしてて、でも細かくて、こんな街に住みたいって思わせてくれる。 「………」 比嘉先生は俺の顔を見たまま黙っている。何を考えているのかわからなくて、見つめ返してみる。
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