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女性は花ちゃんではなかった。
知らない人だった。
「ここに呼び出したのは、あなたですか?」
言葉は丁寧だが、あからさまな悪意を感じさせる声で、女性はそう言った。
「いえ、友達の、自主制作映画の上映試写会があると聞いて来たのですが。映画サークルの」
「はぁ? 映画サークルなんて、この大学に無いわよ」
がらりと変わる口調。
女性は胡散臭そうに僕を見ると、言った。
「もしかして、ナンパとかそう言う類? 顔は少しまともだけど、なんかダサいからダメよ。私と釣り合わないんじゃない?」
一体何を言っているんだ、この人は。
「興味ないです。映画のサークル、ないんですか?」
「てめぇ、殺すぞ。映画サークルなんてねぇよ。嘘つくにしてももっと考えろや」
都会の女子大生は怖い。
僕は斉藤花の手紙を出すと言った。
「別に嘘じゃない」
そして、その女性はその手紙を見ると激高した。
「てめぇ、なめてんじゃねーぞ! 斉藤花だ? 何昔のこと蒸し返そうとしてんだよ? どこで知ったか知らないけど、マジで殺すぞ? って言うかてめー誰だよ?」
僕はその瞬間、目の前の女の正体に気づいた。
泥棒女だ。
成長したら、きっとこんな顔立ちになる。
と、思った瞬間、手に持っていた花ちゃんからの手紙がドロドロに溶け出した。
意味不明だった。
どろりとしているくせに、サラリと手の表面を滑って、床に流れた。
そして次のその瞬間、視聴覚室の入り口が閉まった。
いや、もともとドア自体は閉められてはいたのだが、ガチャリと言う音が聞こえた。
鍵の閉まる音そのものだった。
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