The Flower

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 「なんだよ、おい!」  激高したままの女が、今度はドアに対して噛み付いた。  「何閉めてんだよ! 開けろ!」  ドアの取っ手を掴んでいるが、揺れているだけのようだ。  どうやら閉じ込められたらしい。  と、突然、照明が落ちた。  部屋のカーテンは最初から締め切っていたらしく、真っ暗になった。 「きゃあ!」  僕は息を殺す。  何物かの気配を感じた。 「お、おい! てめぇ、映画とかわけのわかんないこと言ってたお前! お前の仕業かコノヤロー! 開けろ! おい! 開けろよ!」  しかし、僕は噴き出していた。  おかしくてしかたがなかった。  おい、泥棒女。  この程度の暗闇が何だというのだ?  僕と斉藤花は、こんなものよりもずっと暗い場所にいたというのに。  そして、スピーカーからノイズが混じった音声が聞こえた。 『コれ……これよ、り、映画、The Flowerの上映試写会を、開始、しま、す』  視聴覚室の正面にスクリーン。  カウントダウンが映し出された。  そうか、映画だ。  上映試写会だもんな。  カウントは減っていく。  5、4、3、2、1。  ……  ……そして、僕は動けなくなった。  金縛りと言うものだろうか。  まったく体を動かせる気がしない。  そして、それは多分、泥棒女も一緒なのだろう。  僅かに聞こえる泥棒女の呻きと、鼻の先で感じる苦しそうな空気で、それがわかった。
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