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『The Flower』
監督、主演、斉藤花。
それらのテロップが流れる間、やはり自分は金縛りになっているのだなと感じた。
声も出せず、まったく動けない。
呼吸は出来るが、胸は息苦しさでいっぱいだ。
視線をスクリーンに戻すと、桜の花びらが舞う、土手の道が映し出された。
……知っている道だ。
いつか通ったことのある道。
これは、驚くなと言うほうが無理な話だ。
かつて住んでいた、あの街の道だった。
さらに驚くことになったが、その道を歩いているのは、小学6年生の時の斉藤花だった。
あれほど会いたいと願っていた少女の姿だ。
黒い縁の眼鏡、ジーンズにスニーカー。
それに、あの、らくがきと傷だらけのランドセルは間違いない。
斉藤花は一人ではない。
周囲に、子供達がいる。
男子もいれば、女子もいた。
その中心に、あの泥棒女がいた。
『クソ虫、泥棒同士がイチャイチャしてムカつくんだよ! 私が知らないとでも思っていたのか? おい、この電話番号書いた紙、なんなんだよ? どうせあの屑男のだろ?』
『返し、返してよぉ』
桜の花びらが舞っている。
スクリーンの中をいっぱいに。
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