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その時、連絡先の書いた紙は確かに渡したはずだった。
だが、彼女から連絡はずっと無かった。
僕は、新しい土地でうまくやれた。
サッカー部に入って仲の良い友達もたくさん出来て、女の子に告白もされた。
でも、答えは決まって「ごめん。好きな人がいるんだ」だ。
斉藤花のことを、ずっと想っていたからだ。
今思い出したが、僕は当時、彼女のことを花ちゃんと呼んでいた。
花ちゃんは僕を晃君と呼んでいて、別れてからずっと、ずっと彼女から再びそう呼ばれる日を待っていた。
クラスの違う僕らは、お互いの電話番号や住所も全く知らないで過ごしてしまった。
毎日、『明日はあの場所で』と言う約束だけで、十分だったので。
そんなわけで、彼女の引越した先、連絡のアドレスを渡されていない僕は、彼女に連絡することが出来なかった。
それでも、昔住んでいた街に行けば会えるのだろうかと考えたこともある。
だけれど、飛行機と新幹線を乗り継がなくては、その街までいけない。
そこに住んでいた人間を頼りに連絡してみようかとも思ったけれど、その街に住んでいる人間なんて、教師も含めて、みんな僕の敵だ。
それはもちろん、彼女の敵でもあるだろうし、連絡すること以前に、顔を思い出すことですら不快だった。
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