入学

2/14
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/231ページ
燃え盛る大地。聴こえてくるのは炎の音と、微かに聞こえる悲鳴だ。 聞き覚えのあるその悲鳴は、同時に誰かの名前を叫ぶようにも聞こえる。 そして、俺の目の前には背中を向けた同年代ぐらいの人影… 「また…か…」 今年で高校生となった俺は、頻繁にという言葉が当てはまるほどに、この夢をよく見る。 舞台は必ず炎で包まれた、町のような場所。そして、少女の名前を呼んでいるような悲鳴が聞こえる中、俺は炎の中心で、だれかの背中を見つめている。 そして、必ずそこで夢は終わるのだ。 見始めたのはいつ頃だっただろうか。 「ほんと、意味わかんないな」 暗い部屋の中、とりあえず体を起こした俺の視界に、ぼんやりと光る何かが見えた。 それは、8時15分を示すデジタル時計だった。 8時15分…8時15分…… 「8時15分!!?」 俺はベッドから飛び起き、部屋を飛び出る。 この俺、彩姿 華徒(あやし かず)は16歳。さらに言うなら、つい二週間ほど前に中学校を卒業したばかりである。 そして、この焦り様から察してもらえばわかると思うが。 「入学式に遅刻はまずい!!」 ということだ。 けして大袈裟ではない大きな音を立てて、一回リビングへと飛び込むように階段を降りる。 リビングの机の上には何もないが、代わりに台所には、皿の上に乗ったトーストと牛乳が置かれていた。 トーストを急いで平らげ、牛乳で流し込む。 洗面所に向かおうと走り出した途端に、流し込んだ何かが戻ってきそうだったが、かろうじてこらえる。 洗面所に入ると、そこには髪を結ぶ少女の姿があった。 「あ、起きたんだね」 髪を結び終え、完璧に準備のできた少女はそう言った。 「起きたんだね、じゃねえよ。これ遅刻ギリギリじゃねえか!」 「それは、ちゃんと起きれなかった華徒が悪いんでしょ?私はもう家出るから全然間に合うもん」 そう言って玄関へと歩いてゆく。 俺は顔を洗い、歯を磨き始める。 彼女の名は、菜魅 結愛(なみ ゆうあ)といって、訳あって現在俺の家に居候している。 俺の親は、仕事の関係上滅多に帰ってくることはなく、家の家事関係は結愛がやってくれている。 一応言っておくが、男女関係とかはないので。 というか、もともと俺と結愛は幼馴染で遊ぶことは多かった。 ただ、互いの親は俺たちが会ってることは知らないが。
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!