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陽が大分高くなった頃、母の節が戻って来た。
足の悪い父の久より早く帰宅したのは、八重子を家族に迎える準備のためだった。
まず饂飩の準備をする。
秩父地方は蕎麦処だったが、高篠村では饂飩のが祝いの席の〆に欠かせなかったのだ。
大きな捏ね鉢の中で、地粉と塩が水と徐々に交ざり大きな塊になる。
それを伸し板の上に布巾で包んで置き、足で踏む。
硬い塊が徐々に伸されて布巾の下で平らになる。
それを麺棒で更に押し広げる。
そして出来上がった薄べったい麺の元を屏風折りに重ねて端から切っていく。
八重子はその過程をしっかりと見ていた。
粉と塩のあんばいなど、その家庭ならではの配合があったからだった。
八重子は浅見家の技術を得とくしようとしていたのだった。
八重子の目の前で、節は腕を振るう。
節も、八重子と一緒に厨房に立てた幸せで胸をいっぱいにしていたのだ。
二人の結婚話を聞き、親しい人達が駆け付ける。
親族はそのまま、お昼のお客となる。
皆の見守る中、孝一と八重子は仏壇に手を合わせ、結婚を報告した。
「今日からあなたは浅見家の人よ。嬉しい、これでやっとあなたのお母さんとも本当の姉妹になれる」
節は八重子と孝一の手を取り、自分の手の中で二人の手を重ね合わた。
八重子は思わず赤面した。
孝一の優しい、激しい愛撫が脳裏をかすめたからだった。
節は目を細めて、可愛い嫁を見つめていた。
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